一般に「ニーズ」というのは「必要なこと」で「満たされなければいけないもの」を言い、介護サービスでは生活をしていくうえで困っていることや、本人や家族が援助してほしいと望んでいるもの、介護側で援助が必要ととらえているものを言います。別の言い方をしますと、ニーズとは「必要性」のことで、必要なものやサービスが欠けている「状態」のことで、その必要な生活水準を満たすために求められる要望とも言えます。
したがって、実際に介護においてニーズに基づいて提供される援助は必ずしも上記のものをすべて満たすということにはなりません。それはニーズという言葉をサービス利用者の希望を重視して解釈する立場もあれば、専門職の判断を重要視する場合もあるからです。
このことはニーズへ対応する際に、リスクへの対応(リスクマネジメント)も伴うことも意味します。
例えば、座って排便することで排便機能を維持し、オムツを使用せずポータブルトイレを使用することにすれば、ベッドからポータブルトイレに移乗する際の転倒リスクを増大させます。
これは「排便機能を維持」というニーズに対応するために生まれるリスク対応が必要となる例です。
これに対し、デマンドやウォンツというものは、デマンドであれば「要求」「こうしてほしいと思うこと」「望むこと」、ウォンツであれば「要望」「望むもの」であり「叶って欲しいもの」です。デマンドとウォンツは程度に違いはありますが、ほぼ同様な意味合いの言葉です。ニーズは顕在化した欲求、ウォンツは潜在化している欲求と定義する場合もあります。
例えば、利用者が起床する際に「上半身を起こす角度にしたいが、自分ではベッドを操作出来ないので電動ベッドのボタンを操作して欲しい」というのは「ニーズ」であり、それに対し、「おやつは3時頃でなく、昼食後のデザートとして出してほしい」というのは「デマンド」もしくは「ウォンツ」ということになります。
- ニーズ
-
- 必要なこと
- 満たされなければいけないもの
-
デマンド
ウォンツ -
- 要求
- 望むこと
- こうして欲しいと思うこと
人が老いや病やけがなどによってこれまで出来ていたことが出来なくなったとき、形態はさまざまですが、自分の力以外の何らかのケアやサポートが必要になります。
これには心身の問題だけではなく、“働けなくなる”、“収入が減る”、“家族を失う”、“社会的参加がなくなる”などの変化によって起こる問題もあります。
このような変化の結果
- ①必要なことのうち何が出来なくなったのか
- ②これまで通り何がしたいのか
- ③それには、自分ではどこまで出来て、どこから先のケアやサポートが必要なのか
ということを明確にし、それに対応していくことになります。
①の「必要なことのうち何が出来なくなったのか」は文字通り“必要なこと…”ですから、“一人で歩けなくなった”とか“片手が麻痺したため身体が十分に洗えない”といった、いわゆる『ニーズ』に応えられなくなったことの意味です。
②の「これまで通り何がしたいのか」の範囲には、上記①の『ニーズ』に基づくものもありますが、加えて『ニーズ』とまではいかないが、“今までは盆栽の手入れを楽しんでいたがそれが出来なくなった”とか、“これまでのようにもっと孫と会う機会をもちたい”といった類のものが入ります。これは『デマンド』と称して区別すれば良いものです。